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東京高等裁判所 昭和32年(く)35号 決定

少年 S(昭和一三・二・八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は原裁判所は少年が昭和三十一年十二月二十一日前橋市○○町遊技場○○○○で遊技し夕食に出る際今迄使用していた台を確保する為手拭をつけておいたのに同店雇人Bが他の客にその台を使用させていたのを憤慨し年長の友人三名を連れて来てBを戸外に呼び出し同遊技場附近路上で右三名と共謀の上同人の頭部顏面等を手拳で殴打し足蹴にする等の暴行を加え同人に対し前頭部右顔面及左上膊部に全治二週間を要する傷害を与えたとの事実により少年を中等少年院に送致する旨の決定をした。

しかし少年は本来温和な楽天的な性格であるが、祖父Dの教育が厳に過ぎ、又少年の父は戦病死し、母Cと祖父との間は円満を欠き、祖父が少年の面前で母を殴打する等のことがあつたので、少年は家出をし、心を荒ませて本件のような不良的行為をするに至つたものである。本件が起るや祖父と母はその善後策に奔走していたのであるが原審で少年院送致の決定を受けるに至つたので親戚一同も奮起し、祖父及母に説いて今迄の行為を反省させ、右両名も今後家庭の和平を第一とすることを誓約している。そして少年の今後は隣家で、少年の性格及家庭事情を知悉し且少年の最も心服しているEが身柄を引き取りその監護に当ることとなつており被害者に対しても謝罪し示談が成立して被害者からも少年に対する処分の寛大を嘆願している状況である。一方少年本人も月余に亘る勾禁により自己の非行を反省し改悛の情顕著なものがあるのである。以上の情況から見るときは少年には先に二回の審判歴(保護観察一回不処分一回)があるとはいえ、少年を中等少年院に送致する旨の原決定は著しく不当な処分と云うべきであるから、その取消を求めるというにある。

しかし本件保護事件記録並びに少年調査記録によると少年は昭和三十年三月十日前橋家庭裁判所において窃盗詐欺の事実により保護観察処分に付せられ、更に昭和三十一年七月十六日同裁判所において傷害恐喝の事実につき審判の結果、保護司の観察と保護者の協力に俊つべきものとして右事件については不処分とされたが、その後同年八月頃給料の不満により擅にその勤め先である自動車工場を辞めた後は、前にもしていたことのあるパチンコプロに戻り連日パチンコをして徒食していたもので、本件非行もその内容は原決定の判示するとおりであり、かなり悪質な所為と認められるのみならず、その家庭を見るも少年の祖父と母とは折合悪く、祖父は少年に厳格に過ぎ、母は監護の能力なく、少年の家庭と保護司との連絡も十分でなかつたことが認められるから、以上の少年の前歴、生活態度、本件非行の情状並びに少年の生活環境等を総合考察するときは少年を中等少年院に収容して規律訓練を施すのを相当とした原決定の処分は決して不当なものとは認められない。附添人は原決定後少年が悔悟し、家庭不和も解消し少年の監護養育を引き受ける知人も決つたので、少年院に収容すべき事由は解消したと主張するが、このような原決定後の事情を以て原決定を非難することは失当であるばかりでなく、少年が保護観察中であるにも拘らず昭和三十一年八月離職した後連日パチンコに耽り徒食していたのを放任していた保護者等の態度から見て、今後少年の監護が直ちに所論のように十分行われることを期待することもまた困難であると認めざるを得ない。これに要するを原決定は所論のように著しく不当な処分とはいえないものであるから本件抗告を棄却することとし少年法第三十三条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 谷中薫 判事 坂間孝司 判事 荒川省三)

別紙(原審の保護処分決定)

主文および理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

罪となるべき事実

少年は昭和三十一年十二月二十一日昼頃前橋市○○町×××番地○○○○遊技場において遊技(パチンコ)中、午後五時頃自己の使用していたパチンコ機械に手拭を入れて同機械を確保し約二時間余不在にして同午後七時三十分頃同遊技場に戻つたところ、同遊技場雇人Bが右手拭を引揚げ他の客に遊技させたことに憤慨し、同遊技場附近に居合わせた同僚(パチンコプロ)(二十一年)他二名に右事実を告げてBに暴行を加えることを共謀し、同人を同遊技場附近道路上に呼び出して同人の頭部顔面等を手拳にて殴打し、足蹴にする等の暴行を加え、因つて同人に対し前頭部右顔面及び左上膊部に全治二週間を要する傷害を与えたものである。

罰条

右犯罪事実に付刑法第二百四条同法第六十条

少年は、意思薄弱、無気力、自己中心的で爆発性自己顕示性強く、而かも勤労意欲に欠け、正業に就くことを嫌つてパチンコにこり所謂パチンコプロとして収入を図る等その生活態度は常軌を逸し其余詐欺、家財持出し等の非行を重ねたため昭和三十年中当裁判所に詐欺、窃盗保護事件として係属し保護観察処分に付されたのであるが其後も生活態度は一向に改らず昭和三十一年四月には傷害、恐喝等の犯罪をなし再び当裁判所に係属するにいたつたが、既に保護観察中であつたので訓戒の上不処分にした所更に又同年十二月二十一日本件傷害罪を敢行したものであつて、其生活態度は依然としてパチンコに終始し何等の反省が見られないばかりか其性格粗暴悪化の一途を辿り交友は何れも不良徒輩で今日では所謂町の愚連隊化し不良の極度に達して居る。

一方家庭においては保護能力は全くない。仮りに此儘の状態で他に就職したとしても再び犯罪をなすにいたることは火を見るより明らかである。依つて此際施設に収容して厳格な規律訓練を施す必要あるものと認め、少年法第二十四条第一項第三号、少年院法第二条第三項、少年審判規則第三十七条第一項後段を各適用して主文のとおり決定する。(昭和三十二年三月七日 前橋家庭裁判所 判事 神村三郎)

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